アンケート
「アンケートを実施してくれ。」
夏を目前にした放課後。
派手なイベントも控えていないこの時期、珍しく部活も休みの今日。私はただまったりしようと
生徒会室のドアを開ける。
「・・・?こんにちは。東条先生。」
3年生の現国教諭の東条先生は、机に座る蓮と葉野くんを目の前に熱弁を奮っている。
「おう、春日。良かった、お前からも言ってくれ。」
・・・?
現国教諭なのに白衣を常にまとっている東条先生は、先生の中では珍しい20代半ばの若い先生。
顔も整っているし、授業も分かりやすいしで人気があるものの。・・・残念ながら少し変わっている。
「コラ、触んな。」
「ちょ、蓮!」
私の腰に回されかけた東条先生の手を蓮はピシャンと叩く。
「・・・新井、痛いじゃないか。」
「先生も、女子高生に目がないのやめてもらえます?」
「だって春日可愛いんだもん。な−。」
な−・・・って、私に同意を求めるのもやめてもらいたい。
東条先生の女子高生好きさは異常で、みんな一応冗談だと受け流しているものの。本当は本気なんだと思う。
この人の夢は生徒と結婚することだそうだ。・・・冗談にならない。
蓮に引っ張られて奥のソファーに一人座らされる。
先生の立ち位置からはここが一番遠くて安全ということだろう。
「それで、先生今日はどうされたんですか?」
「おお、春日聞いてくれるか?実は図書室主催のアンケートをしようと思っていてな。」
「図書室主催のアンケート??」
「要するに。夏休みの間女子生徒を呼び込みたいがために本のラインナップを豊かにしたい・・と。」
蓮、要点を言いすぎよ。
「まあ、間違ってはいないよね。」
・・・先生も間違ってはいないんだ。
蓮は呆れて机の上の整理とかしちゃってるし、葉野くんもお茶とかつぎに行っちゃってるし・・・。
「だってさ−。夏休み中暇なんだもん。女子たちと話くらいさせてくれたっていいだろうよ−。」
生徒会室にため息が溜まる。
「春日の妹もよく来るぞ?図書室。あ、折角だから琴月にも聞いてみてくれ。」
キッチンのほうで、大きな音が立つ。
「・・・はづ、包丁は・・無かったよな。」
「は、葉野くんっ!?」
心配と恐怖をよそに、葉野くんは笑みを浮かべながらコーヒーを片手にやってくる。
「まさか。こんなことで怒りませんよ。先輩じゃあるまいし。」
「さすが!葉野は大人だな。
にても春日とは違った良さがあるね、琴月は。あの凛とした顔、いいよな。うん。」
「先生、これはさっきまで長時間沸騰していたお湯で沸かしたコーヒーです。」
真顔で先生の寸前までズンと近寄る。
・・・大人げな。
「じゃあ、どんな恋愛小説のジャンルが好きかアンケートを取ってみてはどうでしょう。
やっぱり女の子は恋愛小説が好きなんですよ。」
私は終わりのないやりとりに疲れて、提案をしてみる。
「私が作りますから、女子代表として。アンケートは朝の時間をいただいて実施しましょう。
内容はどうしようかな・・・とりあえず・・・これから私が1人でやるので、先生。職員室に帰ってください」
「・・ちょっと。春日、酷いじゃないか。」
「・・・酷くなんかない。この空気のほうが、酷い。」
すでに机の上をピカピカに掃除し終えた蓮が横やりを入れる。
「やだよ−。職員室帰っても暇だもん。一緒に作ろうか、春日。」
改めて空気が凍る。
気が付くと葉野くんは席を外していて。この分だと図書館にでも逃げたか?
「いいです。アンケートは俺と羽月で作りますから。先生は、是非職員室で待機。」
蓮の言葉がおかしい。
「え−−−っ。」
「じゃないと作りません。」
蓮は本気だ。
「蓮って、結構やきもちやくね?なんだか意外だなぁ。」
私はパソコンのエクセルを立ち上げながら、隣に座って画面を覗く蓮に聞く。
「なんも意外じゃないだろ。ああいうのはつけあがらせたらダメなんだよ。芽はちっこいうちから除いていかないと。
俺、意外とこの活動盛んに行ってるからな。
「はづに好意を持っている奴らの芽を摘み取ろうの会」」
「・・・地道な活動をされていることで。」
恥ずかしいので、スルー。
そんな私に蓮は気づいていて、隣でニヤニヤ笑っている。
「な、何?」
「いいえ、別に。」
アンケートの内容を入力する。
これがズバリ、東条先生の役にたってしまうかと思うとちょっと憂鬱だけど。
「出来た。これでどうかな?」
私は印刷したプリントを机に広げる。
恋愛小説についての質問。
女子に対しての質問に絞ってしまったけれど、これはこれで男子が答えてくれたら面白い結果が出るかもしれない。
隣に座る蓮は私の頭を優しく撫でて甘やかす。
「ばっちり。」
「結局葉野くん戻ってこなかったねえ。琴月にメールでもしてみよっかなあ。もう帰るでしょ?」
「・・・イチャイチャしてるかもだからさ、可哀相でしょ。葉野。」
「あら、珍しい!いつもなら率先して怒るのに−−っっ。」
私はパソコンの電源を落として、荷物をまとめる。
時間が経つのは早くて、もう太陽が陰り始めている。
「日が伸びたねえ。もう夏になるんだね。」
荷物を持って立ち上がる。そして蓮の伸びた左手に指を重ねる。
珍しい。自分から手をつなご、だなんて。
「誰かに見られるかもよ。」
「・・ん−。なんかもういい。ほら、地道な活動してるから。」
よいしょ、と指を絡ませられる。
・・・恥ずかしい。けど、これで照れたら笑われそう。
「はづ、手のひらあっつ−。照れてんの?」
手のひらで心情まで見破れるのか。すごいな。
「・・・まっしゃかぁ。」
・・・噛んじゃった。
「あははははっっ!!まっしゃかぁだって!お前っ。」
・・・好きで噛んだんじゃないわよ。・・・もうっ。
私はズンズンと手を引いて歩きだす。
「蓮はっ!もっと乙女心を知ったほうがいいよ。恋愛小説読んだ方がいいよっ。まったくっ!」
「・・・はいはい。とりあえず、アンケの結果が出たらちょっと見てみるよ−。・・・はははっ。照れんなよ。」
照れてないよっ。時々こういうことするからびっくりしただけじゃないの。
「アンケの結果、楽しみに待ってなさいよね。」
悔しい。・・・こんなにも言われてまだカッコよく見えるのが、悔しいわ。
私ももっと恋愛小説を読んだ方がいいのかもしれない。
蓮よりもっとカッコいい主人公が登場するやつをもっと探してみるのもいいかもしれない。
「いないよ。そんな奴。」
私は驚いて繋いでいた手を離す。
「・・・また、心読まれた!?」
「読んだよんだ。もうお前、スケスケだから。」
「・・なっなんでよぅ!!」
キンコンカンコ−ン・・
蓮 「はづ、プリント用意されてる?大丈夫?」
羽月 「大丈夫だよ−。」
蓮 「それでは今から配布するアンケートのご協力、よろしくお願い致します。」
羽月 「必須の質問はないので気軽に答えて下さい。記入出来たら、後ろから前に回してください。」
蓮 「それではお願いします−。」
★アンケート
羽月 「記入していただけましたか?それでは後ろから回して下さいね。」
羽月+蓮 「ご協力、ありがとうございます!」
